2008年4月25日金曜日

Brand Value

トヨタのブランド価値について話していたら、Global 広告グループ大手のWPPに属する調査会社Millward Brown が、企業のブランド価値ランキング Top 100 “BrandZ Top 100 2008 Report” を公開した。

トップ3は、1位グーグル、2位GE、3位マイクロソフト と、最近のブランドランキングの常連が占めているが、注目すべきはトヨタが12位と日本企業ではダントツの地位を占めたことである。
トヨタ以外に日本企業でTop 50に入った企業は、ホンダ(37位)、NTTドコモ(45位)の2社のみで、かつて日本のブランド企業の代表格であったソニーは今回Top 100にも入っていない。(参考:世界のブランドランキング、Google が首位を維持

Millward Brown のブランド価値算出方法は、以下のようなステップを踏んでいる。(“BrandZ Top 100 2008 Report”の4ページ)



Step1: ブルームバーグ社データモニタ社、およびMillward Brown のOptimorと呼ぶ自主研究に基づく、各企業ブランドの財務データにより、対象企業の無形収益(Intangible Earnings)を推計する。

Step2: 無形収益のうち、ブランドの貢献分を、市場における製品・サービス価格などから推計。Millward Brown がBrand Contribution と呼ぶこの手法は、商品・サービスに対するロイヤルユーザから収益のシェアを反映しており、有するBrandZデータベースのデータを使用している。

Step3: BrandZデータベース、ブルームバーグ、およびOptimorの自主研究のデータを用いて、 市場評価、ブランドのリスク因子、およびその成長性に基づいてブランド価値を推計する。

さ て、前回の投稿でトヨタの「超過収益力」が小さいなどと書いたが、Millward Brown のブランド価値(額)の測定が財務データをベースに算出されていることから、いまや世界第一位の自動車メーカーとなったトヨタは、その規模の経済の恩恵で 世界でも有数の「超過収益力」を有する企業であるのは疑いようのない事実と言える。

しかし、そこで「ブランド価値」の話。

トヨタの有する「ブランド価値」は、機能的価値・情緒的価値については強いが、社会的価値についてはどうだろうか?というのが、前回の議論だった。それでは社会的価値とは?
私は、「社会的価値≒そのブランドを有することによって、消費者が社会において「自分は~な人間」と自己表現できること」と定義している。

あなたはメルセデスベンツに乗っている人を見て、その人をどういう人だと思うだろうか?

単 純に「お金を持っている人だな」と思う方もいらっしゃるだろう。さらに踏み込んで「価値を持つものには金に糸目をつけない人だな」と思う人もいるかもしれ ない。あるいは「お金だけでなく、社会的地位もある人だな」と思う人もいるかもしれない。そして、この「~な人」に見られることを期待して、メルセデスベ ンツを買う人がいたら?それがメルセデスベンツの社会的価値である。

しかし、その一方でメルセデスベンツに乗る人を「センスのない人だな」と見下す人もいるかもしれない。そして、そういう人の中には、アウディに乗ることで「私はお金を持ってるだけじゃなくて、デザインにもこだわりがあるんですよ。」と自己表現する人もいるかもしれない。とにかく、こうした社会的価値は、クルマのような成熟しきった市場では、競争軸として非常に重要な意味を持つ。

そしてトヨタ。

3年前の米アカデミー賞授賞式に、レオナルド・ディカプリオをはじめとした多くのハリウッドスターが、ハイブリッドカーであるトヨタ・プリウスに 乗って登場したことを記憶している方も多いだろう。これは、燃費の悪いリムジンやストレッチSUVに乗るより、環境を配慮したハイブリッドの方が社会的に "Cool"ということなのだ!という一種の自己表現以外の何物でもない。そして、このような米国のセレブ(死語!)達から出てきた動きをいち早く捕らえ、トヨタは「環境のトヨタ」として自らのブランドポジショ ンを築こうとしている。

それは Lexusブランドにハイブリッドをラインナップしたことからも分かる。環境配慮をしているということを表現できることは消費者にとって超過価格を払うに 足る、重要な社会的価値なのである。そして、トヨタ=環境配慮=Cool の図式を不動なものにするため、トヨタはマス媒体に留まらず、ネットの世界でも消費者に刷り込みを始めている。

続きは次回。

2008年4月14日月曜日

Brand Building

質問:ブランドとコモディティ(普及品)との違いは何か?

この質問に対して、色んな人が色んな持論を展開するであろう。
そこで、ここでは、あくまで「消費者」の立場から考えてみようと思う。

答え:そのブランドならではの価値があるものがブランド

ここで混同しないでいただきたいのは、
これはあくまで「消費者にとっての価値」ということ。

経済的には、ブランドの価値は「超過収益力」として一般的に表現される。
すなわち、他社とまったく同一の機能・性能のプロダクトにも関わらず、
他社よりも高い値付けが可能ならば、その差額が超過収益力となる。
(ウィキペディアより)

その「超過収益力」の源泉が「消費者にとっての価値」である。
消費者はその価値が欲しくて、ブランドを買うのである。

そして「消費者にとっての価値」というものは、大きく

・機能的価値
・情緒的価値
・社会的価値

の3つの階層に分かれるといわれる、

さて、ここで「トヨタはブランドか?」という議論がある。

トヨタは「トヨタ」のままでは「超過収益力」を保持できないので、
「レクサス」ブランドを作ったという。
しかし、あくまで、メルセデス、BMWといった欧州メーカーとの比較での話だ。

2003年頃ある広告代理店が行った消費者調査で、
同じボディタイプ同士(コンパクト、中型セダン等)の比較では、
全てのボディタイプでトヨタは国内メーカー中、
最高の値付けがなされたという報告を見たことがある。

つまり、トヨタは国内では6割に迫る販売台数シェアを誇るが、
「安売り」によるものではなく、むしろ他の国内メーカーを上回る販売価格で、
それを実現しているのである。

それでは、どうしてトヨタはそんなに売れるのか?
消費者は他より高い値付けでもトヨタを買うのか?

ある人はこう答えるだろう。
 「トヨタは燃費も良いし、品質も高い(=機能的価値)から」
またある人はこう答えるだろう。
 「トヨタだと壊れにくいし安心(=情緒的価値)だから」

それが、トヨタの「価値」である。

しかし、それは本当だろうか?
そう言っている人の何人が、他のメーカーの全てを見て、比較をしているか?
トヨタを買った人の思い込みに過ぎなかったりしないのか?

しかし「トヨタ」と聞いた瞬間に、消費者にそういう「価値」を頭に思い浮かべ、
購入に至らしめているという事実が、トヨタが「機能的価値」レベルで、
そして場合によっては「情緒的価値」レベルで極めて成功しているブランド、
ということを示している。

しかし、そんなトヨタも、先に述べたとおり、メルセデスやBMWのような、
超過収益力をもたらしていないとしたら・・・。
それは、消費者がトヨタに「社会的価値」を見出していないからである。

続きは次回。

2008年4月1日火曜日

April Fool

日本に根付いたのか、根付いていないのか。
そんな、エイプリル・フールのお話。

今年は、日本における2大検索エンジンのYahoo!JapanとGoogleがそれぞれ、エイプリル・フール特別企画を行った。なお日本では、Googleのエイプリル・フール企画は初参戦とのこと(米国では2000年より継続的に行っているという)。

そのGoogleのネタが「ダジャレサーチ」というもの。「国内線」と検索すると、「おもいしろいけどシツコクナイセン」と、ちっとも面白くないダジャレ(笑)が検索結果に出てくる。(もちろん、4月1日限定)
しかし、ダジャレのセンスはともかく、「検索」という同社の最大の商品を、そのままエイプリル・フールにしてしまうところがGoogleらしく、そのセンスには脱帽だ。

対する日本の王者Yahoo!Japan。これまたYahoo!Japanらしく、日本の一般大衆が喜びそうな企画。トップページがインベーダーに侵略された・・・という設定で、トップページがガラガラと崩れたと思ったら、タイトー社のインベーダーゲームの画面が現れ、そのままゲームが楽しめる。

この2つの企画、それぞれが「らしさ」を競っていて面白い。
Googleの企画は、そのページ画面と同じで、シンプルで控えめだけど、「知る人ぞ知る」的な面白み。
Yahoo!Japanの企画は、情報満載でサービスたっぷりのページ構成と同様、派手なアクションとエンターテイメント性がたっぷり。

前回の投稿で、ブランディングにはコミュニケーションだけでなく、商品そのものも重要・・・という話をしたが、両社にとって、こうした企画は期間限定の商品のようなものでありながら、コミュニケーションそのもの。まさに、エイプリル・フールという機会を狙った重要なブランディングでもある。

マーケティングを少しでも齧った人は、マーケティングの4Pという言葉を聞いたことがあろう。Prouct, Price, Promotion, Place の4つである。(ちなみに、Promotionはコミュニケーションと同義で使われることが多い。)

しかし、基本的には消費者に対するサービスが無料で、究極的にはインターネットという場所を問わないサービスを提供する両社にとって、Price と Place 以上に、Product と Communication の重要性は非常に高くなる。(もちろん、携帯市場における両社の争いなどは、両社の戦略上、極めて重要なPlaceを巡る争いではあるが)たかがエイプリル・フールのお楽しみ企画ではあるが、こうした取り組みはこの2社にとって、ブランディングの観点から、実は非常に重要な取り組みなのである。

さて、今年のエイプリル・フール。
あなたは、Yahoo!Japan とGoogle、どちらに軍配を上げるだろうか?