2008年5月7日水曜日

検索連動型広告とブランディング

2008年3月31日を持って一度は失効していた
ガソリン税の暫定税率が衆院で可決、
同年5月1日に復活してしまった。

4月30日にガソリンタンクが空であることに気づいた私は、
翌日からGW旅行でクルマが必要ということもあって、
ガソリンスタンドで長蛇の列に並ばざるを得ない羽目に陥ったが、
読者の方にも同じような経験を持つ方も多いことだろう。

そんな状況下で、あなたはクルマを買わざるを得ないとする。
「少しでも燃費のいい車を買おう!」と思う人も多いだろう。

そんな場合、まず取る行動はなんだろうか?

クルマに詳しい友人に聞いてみる?
ほとんど足を踏み入れたことのない、
本屋の車雑誌コーナーで雑誌でも覗いてみるか?
それとも「燃費のいいクルマ」とでも入力して検索してみるか?

すると、自然に出てくる検索結果とは別に「スポンサーリンク」として、
以下のような広告が出てこないだろうか?

こだわりの自動車 燃費
燃費・パフォーマンス・居住性…。
こだわり条件で理想のクルマを発見
etoyota.net

この「こだわりの自動車 燃費」をクリックすると、
トヨタの主要サイトを統合した、
etoyotaというトヨタのポータルサイトに飛ぶことができるのだが、
ほかに1ページ目で出てくるのは自動車専門サイトのページや、
個人ブログの記事だけで、実は自動車メーカーのサイトが、
ひとつもないことに注目してほしい。

トヨタは自動車を購入を検討している人の多くが、
インターネット検索を頻繁に行っている、
という事実をきちんと捉えた上で、
自社サイトへと確実に誘導することに努めているのである。

消費者の情報収集プロセスで、
仮に「環境配慮=トヨタ」という図式を
消費者のマインドの中で、構築することが出来れば、
それはもうトヨタのブランディングは成功したようなものである。

逆に言うと、ここで自社ブランドの名前を、
消費者の眼前に表出させることのできないメーカーは、
自社サイトでどんなに低燃費を謳っても(ホンダのサイト)、
このような検索行動をとる消費者の前には、
きつい言い方をすれば「眼中にない」
という結果にならざるをえないのである。

もしあなたがクルマに詳しくなく、
同じように環境配慮のクルマについて、
インターネット検索を行った結果、
目に入るブランドがトヨタばかりだったとしたら、
あなたは「環境にやさしいクルマを買うならトヨタ」
と考える可能性は高いのではないだろうか?

単なるビジュアルや世界観で訴えるだけがブランディングではない。
インターネットマーケティング業界では、その辺がまだ理解されてない。
そんな印象を受けることが多い。

もちろん、果たしてその辺を理解した上で、
トヨタも検索広告を行っているのか、
それは分からないが・・・。

いずれにしても、
恐るべしトヨタ!!

2008年4月25日金曜日

Brand Value

トヨタのブランド価値について話していたら、Global 広告グループ大手のWPPに属する調査会社Millward Brown が、企業のブランド価値ランキング Top 100 “BrandZ Top 100 2008 Report” を公開した。

トップ3は、1位グーグル、2位GE、3位マイクロソフト と、最近のブランドランキングの常連が占めているが、注目すべきはトヨタが12位と日本企業ではダントツの地位を占めたことである。
トヨタ以外に日本企業でTop 50に入った企業は、ホンダ(37位)、NTTドコモ(45位)の2社のみで、かつて日本のブランド企業の代表格であったソニーは今回Top 100にも入っていない。(参考:世界のブランドランキング、Google が首位を維持

Millward Brown のブランド価値算出方法は、以下のようなステップを踏んでいる。(“BrandZ Top 100 2008 Report”の4ページ)



Step1: ブルームバーグ社データモニタ社、およびMillward Brown のOptimorと呼ぶ自主研究に基づく、各企業ブランドの財務データにより、対象企業の無形収益(Intangible Earnings)を推計する。

Step2: 無形収益のうち、ブランドの貢献分を、市場における製品・サービス価格などから推計。Millward Brown がBrand Contribution と呼ぶこの手法は、商品・サービスに対するロイヤルユーザから収益のシェアを反映しており、有するBrandZデータベースのデータを使用している。

Step3: BrandZデータベース、ブルームバーグ、およびOptimorの自主研究のデータを用いて、 市場評価、ブランドのリスク因子、およびその成長性に基づいてブランド価値を推計する。

さ て、前回の投稿でトヨタの「超過収益力」が小さいなどと書いたが、Millward Brown のブランド価値(額)の測定が財務データをベースに算出されていることから、いまや世界第一位の自動車メーカーとなったトヨタは、その規模の経済の恩恵で 世界でも有数の「超過収益力」を有する企業であるのは疑いようのない事実と言える。

しかし、そこで「ブランド価値」の話。

トヨタの有する「ブランド価値」は、機能的価値・情緒的価値については強いが、社会的価値についてはどうだろうか?というのが、前回の議論だった。それでは社会的価値とは?
私は、「社会的価値≒そのブランドを有することによって、消費者が社会において「自分は~な人間」と自己表現できること」と定義している。

あなたはメルセデスベンツに乗っている人を見て、その人をどういう人だと思うだろうか?

単 純に「お金を持っている人だな」と思う方もいらっしゃるだろう。さらに踏み込んで「価値を持つものには金に糸目をつけない人だな」と思う人もいるかもしれ ない。あるいは「お金だけでなく、社会的地位もある人だな」と思う人もいるかもしれない。そして、この「~な人」に見られることを期待して、メルセデスベ ンツを買う人がいたら?それがメルセデスベンツの社会的価値である。

しかし、その一方でメルセデスベンツに乗る人を「センスのない人だな」と見下す人もいるかもしれない。そして、そういう人の中には、アウディに乗ることで「私はお金を持ってるだけじゃなくて、デザインにもこだわりがあるんですよ。」と自己表現する人もいるかもしれない。とにかく、こうした社会的価値は、クルマのような成熟しきった市場では、競争軸として非常に重要な意味を持つ。

そしてトヨタ。

3年前の米アカデミー賞授賞式に、レオナルド・ディカプリオをはじめとした多くのハリウッドスターが、ハイブリッドカーであるトヨタ・プリウスに 乗って登場したことを記憶している方も多いだろう。これは、燃費の悪いリムジンやストレッチSUVに乗るより、環境を配慮したハイブリッドの方が社会的に "Cool"ということなのだ!という一種の自己表現以外の何物でもない。そして、このような米国のセレブ(死語!)達から出てきた動きをいち早く捕らえ、トヨタは「環境のトヨタ」として自らのブランドポジショ ンを築こうとしている。

それは Lexusブランドにハイブリッドをラインナップしたことからも分かる。環境配慮をしているということを表現できることは消費者にとって超過価格を払うに 足る、重要な社会的価値なのである。そして、トヨタ=環境配慮=Cool の図式を不動なものにするため、トヨタはマス媒体に留まらず、ネットの世界でも消費者に刷り込みを始めている。

続きは次回。

2008年4月14日月曜日

Brand Building

質問:ブランドとコモディティ(普及品)との違いは何か?

この質問に対して、色んな人が色んな持論を展開するであろう。
そこで、ここでは、あくまで「消費者」の立場から考えてみようと思う。

答え:そのブランドならではの価値があるものがブランド

ここで混同しないでいただきたいのは、
これはあくまで「消費者にとっての価値」ということ。

経済的には、ブランドの価値は「超過収益力」として一般的に表現される。
すなわち、他社とまったく同一の機能・性能のプロダクトにも関わらず、
他社よりも高い値付けが可能ならば、その差額が超過収益力となる。
(ウィキペディアより)

その「超過収益力」の源泉が「消費者にとっての価値」である。
消費者はその価値が欲しくて、ブランドを買うのである。

そして「消費者にとっての価値」というものは、大きく

・機能的価値
・情緒的価値
・社会的価値

の3つの階層に分かれるといわれる、

さて、ここで「トヨタはブランドか?」という議論がある。

トヨタは「トヨタ」のままでは「超過収益力」を保持できないので、
「レクサス」ブランドを作ったという。
しかし、あくまで、メルセデス、BMWといった欧州メーカーとの比較での話だ。

2003年頃ある広告代理店が行った消費者調査で、
同じボディタイプ同士(コンパクト、中型セダン等)の比較では、
全てのボディタイプでトヨタは国内メーカー中、
最高の値付けがなされたという報告を見たことがある。

つまり、トヨタは国内では6割に迫る販売台数シェアを誇るが、
「安売り」によるものではなく、むしろ他の国内メーカーを上回る販売価格で、
それを実現しているのである。

それでは、どうしてトヨタはそんなに売れるのか?
消費者は他より高い値付けでもトヨタを買うのか?

ある人はこう答えるだろう。
 「トヨタは燃費も良いし、品質も高い(=機能的価値)から」
またある人はこう答えるだろう。
 「トヨタだと壊れにくいし安心(=情緒的価値)だから」

それが、トヨタの「価値」である。

しかし、それは本当だろうか?
そう言っている人の何人が、他のメーカーの全てを見て、比較をしているか?
トヨタを買った人の思い込みに過ぎなかったりしないのか?

しかし「トヨタ」と聞いた瞬間に、消費者にそういう「価値」を頭に思い浮かべ、
購入に至らしめているという事実が、トヨタが「機能的価値」レベルで、
そして場合によっては「情緒的価値」レベルで極めて成功しているブランド、
ということを示している。

しかし、そんなトヨタも、先に述べたとおり、メルセデスやBMWのような、
超過収益力をもたらしていないとしたら・・・。
それは、消費者がトヨタに「社会的価値」を見出していないからである。

続きは次回。

2008年4月1日火曜日

April Fool

日本に根付いたのか、根付いていないのか。
そんな、エイプリル・フールのお話。

今年は、日本における2大検索エンジンのYahoo!JapanとGoogleがそれぞれ、エイプリル・フール特別企画を行った。なお日本では、Googleのエイプリル・フール企画は初参戦とのこと(米国では2000年より継続的に行っているという)。

そのGoogleのネタが「ダジャレサーチ」というもの。「国内線」と検索すると、「おもいしろいけどシツコクナイセン」と、ちっとも面白くないダジャレ(笑)が検索結果に出てくる。(もちろん、4月1日限定)
しかし、ダジャレのセンスはともかく、「検索」という同社の最大の商品を、そのままエイプリル・フールにしてしまうところがGoogleらしく、そのセンスには脱帽だ。

対する日本の王者Yahoo!Japan。これまたYahoo!Japanらしく、日本の一般大衆が喜びそうな企画。トップページがインベーダーに侵略された・・・という設定で、トップページがガラガラと崩れたと思ったら、タイトー社のインベーダーゲームの画面が現れ、そのままゲームが楽しめる。

この2つの企画、それぞれが「らしさ」を競っていて面白い。
Googleの企画は、そのページ画面と同じで、シンプルで控えめだけど、「知る人ぞ知る」的な面白み。
Yahoo!Japanの企画は、情報満載でサービスたっぷりのページ構成と同様、派手なアクションとエンターテイメント性がたっぷり。

前回の投稿で、ブランディングにはコミュニケーションだけでなく、商品そのものも重要・・・という話をしたが、両社にとって、こうした企画は期間限定の商品のようなものでありながら、コミュニケーションそのもの。まさに、エイプリル・フールという機会を狙った重要なブランディングでもある。

マーケティングを少しでも齧った人は、マーケティングの4Pという言葉を聞いたことがあろう。Prouct, Price, Promotion, Place の4つである。(ちなみに、Promotionはコミュニケーションと同義で使われることが多い。)

しかし、基本的には消費者に対するサービスが無料で、究極的にはインターネットという場所を問わないサービスを提供する両社にとって、Price と Place 以上に、Product と Communication の重要性は非常に高くなる。(もちろん、携帯市場における両社の争いなどは、両社の戦略上、極めて重要なPlaceを巡る争いではあるが)たかがエイプリル・フールのお楽しみ企画ではあるが、こうした取り組みはこの2社にとって、ブランディングの観点から、実は非常に重要な取り組みなのである。

さて、今年のエイプリル・フール。
あなたは、Yahoo!Japan とGoogle、どちらに軍配を上げるだろうか?

2008年3月15日土曜日

architects of experience

architects of experience=経験を構築する人/人々

マーケティング/ブランディング活動とは、ありていに言えば、ブランドとの接点における消費者のブランド経験の構築作業である。

ブランドとの「接点」を電通は「コンタクトポイント」と呼び、博報堂は「タッチポイント」と呼ぶが、実はもっとも重要な「接点」は最終的に貨幣と引き換えに消費者に提供される「商品そのもの」である。

広告代理店は、すでにある商品の訴求ポイント(USP=Unique Selling Point などとも呼ぶ)を、その商品に対する消費者の潜在的ニーズに対する洞察をベースに、さまざまなメディアであの手この手で伝達し、消費に至らせることを生業としている。ただ最近は、コミュニケーションだけでなく、商品開発の段階から深くかかわっていることも多い。街中で目にするヒット商品の元々のアイデアが、実はその商品を売っているメーカーではなく、広告代理店の手によるものということも少なくない。しかし、そうは言っても広告代理店にとっては、やはりコミュニケーションが主な仕事で、中には実際の商品価値から乖離した「にぎやかし」による「イメージ訴求」で、短期的な売上達成を目指すコミュニケーションに終始しているケースが多いのも現実だ。

広告は、その商品やブランドに関して重要な経験のひとつではあるが、そもそもの商品経験がマズければ、消費者は2度とその商品やブランドに振り向いてはくれない。まずは、商品やブランドの価値が明確であること。そして、そうした商品やブランドの価値をさまざまな「接点」で適切に消費者とコミュニケーションを取ること。aoe | architects of experience は、そうして理念の上で結成された。

マーケティングの本質とは、「いかにエスキモーに氷を売るか?」であると聞いたことがある人も多いだろう。

そのような命題に対し、大手広告代理店は、多くの場合、大量のメディア投下により、何の変哲もない氷を、いかに他と異なるものであるか、をコミュニケーションを通じて信じ込ませ、購入へ至らせる、というアプローチを取る。しかし、このような消費行動は、常に大量のメディア投下と引き換えであることに留意する必要がある。投下をやめたとたんに、その氷の消費は落ち込み、その辺の氷とまったく同じものになる。なぜなら、元々その氷は「何の変哲もない氷」だからだ。

一方、aoeが目指しているのは、「エスキモーですら必要とする氷」が何であるかを明らかにした上、まずそれを実際に作ることにある。そして、その新しい価値を持った氷をさまざまな接点を駆使してコミュニケーションすることで、エスキモーが継続的に購入してくれる土台を作るのだ。この点が、大手広告代理店とaoeは決定的に異なる。このようなやり方は、企業やブランドが、大量の広告投下に頼らず、消費者の継続的な支持を集めるには、王道ともいえるやり方である。

aoeは、常に新しい価値を創造し、その価値を全ての接点で五感を通じて感じさせ、企業やブランドの継続的な成長に寄与したい、と考えている。

2008年3月5日水曜日

The first step

はじめの一歩というものは、あまり深く考えないほうが、うまくいく。
だから、とりあえず軽い気持ちで書き始めることにした。

このブログは「マーケティング&ブランディングに関するあれこれ」
という副題がついている。

しかし、小難しい話はあまりするつもりはない。
マーケティングは、誰もが常に本能的にやっていることだ。

「政治は人間が3人になった段階で始まる」
20年以上前、大学の教養課程の政治学の教授が言った。

それならば、
「マーケティングは人間が2人になった段階で始まる」
と言えよう。

マーケティングとは、ターゲットとした対象(人)に対して、五感に訴えかけ、自らが望む行動を取らせることである。

欲しい洋服の前で、ちょっと甘えた声を出してみたり、
勝負のプレゼンの日には、原色系の服を着てみたり、
好きな異性に振り向いてもらいたくて、流行の髪形にしてみたり、
頼られる上司と思ってもらおうと、まめに声をかけたりメールを送ったり。

誰でも似たような経験があるだろう。

それではブランディングとは一体なにか?

ブランディングの最終目標は、あの手この手で五感に訴えかけるまでもなく、その「ブランドネーム」や「ブランドロゴ」だけで、ターゲットとした対象(人)に、自らが望む行動を取らせることを可能とすることである。
そしてブランディングとは、そのような「最終目標」の実現に向けた、「絶え間ない」マーケティング活動を言う。

ここで重要なのは、その活動が「絶え間ない」ものであることである。
ブランドはその活動を止めたときに、ブランドではなくなる。
莫大な利益を生むブランドと絶え間ない投資は表裏一体なのである。

読者の方々にとって、このブログが、シンプルにマーケティング&ブランディングを考える、第一歩になれば幸いである。